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三十路女のくだらない日々。


by kutuganaru
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テーマ「声」

留守番電話に、メッセージが入っている。
「お話がありますので、気がつきましたらかけなおしてください」
男性の、よく通る、耳を撫でる風のような声だった。
そのような魅力的な声であるにも関わらず、お話、などというのが、すこしおかしい。
気がつきましたので、かけ直すべきなのだろうが、なにせわたしは、この男性を知らない。
携帯電話に残っている番号は、見た事がないものであるし、第一こんな美しい声を一度聞いたら、忘れられるわけがないのだ。
どうしよう。ここでわたしは迷う。
こんな美しい声が、私に向かって話しかけるのなら、それはぜひ聞いてみたい。私に対する、お話、はないだろうが、間違い電話であることを伝えるべきである。
しかし、こんな美しい声を前に、私はうまくしゃべれるだろうか。
きちんと、間違い電話であることを伝えられるのだろうか。
自信がない。
でも、お話、が急ぎの用件だったらどうしよう。
こんなすてきな声の人が困っていることを考えると、どうにも落ち着かない。
迷った挙げ句、私はかけ直すことにした。
リダイアルの、知らないその番号を表示し、通話ボタンを押す。
知らぬ間に手に大量の汗をかいており、ボタンを押す手が少しすべったが、なんとかディスプレイの表示は点滅した。
今、私の携帯電話から、声のきれいなあの人に、目に見えない電波が飛んでいく。
電話を耳に当て、わたしは見えない電波を目で追うように、空を見上げる。

電話は繋がらなかった。正確には、話し中であった。

わたしは、声のきれいなあの人の、お話、は、伝わるべき人にきちんと伝わったんだなあ、となぜか確信した。
伝わるべき人はきっと、長い髪のきれいな、女の人であることも、なぜか確信した。
それで、先ほどの電波をたどろうと、もう一度空を見上げるが、そこにはもちろん、何もなかった。先ほどから、何もなかったのだ。

ただ、遥か彼方に、横向きにまっすぐ走る、一本の飛行機雲が見えるだけだった。

肉まんを買おうと思っていたのがだが、急遽あんまんに変更して、コンビニへ急ぐ。





今日の一冊「推理小説」秦建日子
by kutuganaru | 2007-12-10 20:59