三十路女のくだらない日々。


by kutuganaru
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やさしい訴え

これも、小川洋子さんの、作品。
図書館に行ったとき、伊坂幸太郎さんの本も、他に気になる本もなくて、小川洋子さんの本を2冊だけ、借りてしまったのです。
川上弘美さんは、全部読んでしまったので、新作を待たないといけないし、新しい作家の本に挑戦するのは、保守派の私にとって、結構勇気がいるのだ。
そんな訳で、今は小川洋子さんばかり、読んでしまう。

夫に愛人がおり、家を出て,子供の頃に過ごした別荘へ身を寄せる女性の話で、最初は夫に対する「やさしい訴え」のことなのかと思っていた。
しかし、読みすすめて行くと、夫は主人公の過去に暗い影を落としただけの脇役に過ぎず、「やさしい訴え」は、チェンバロで奏でられる優しい旋律の曲名だった。

この作品を読んで,小川洋子さんの作品を改めて思い出してみて、ある事に気が付いた。
私が読んだ数少ない小説に限るが、主人公は大抵、ちょっと暗かったり冷静だったりするが、基本的にまともであった。
それは、読者にわかりやすく話をすすめて行くためには、主人公が突飛であったり、人並外れて抜けていたり、多大な狂気を持ち合わせていたりしたら、不都合が生じるだろう。
だから大抵、主人公の視点で話を進めて行くタイプの小説においては、主人公よりもその周囲にいる人が、変わっている、というものが多いように思う。

しかし、この小説は、主人公が、狂気を抱いている。
逆に,周りの人物が、この狂気を抱いた主人公を優しく取り巻いている。
それなのに、話は分かりやすく流れるように頭に入って行き、全ての人物像も、しっかり伝わって来る。
そういった本を、昔私は一度読んだことがある。
「どんとこい!超常現象」がそれである。
ドラマ「トリック」の中で、阿部寛演じる上田教授が、劇中出した本が、ほんとに発売されていた。それを購入した後輩から、貸してもらったものだった。
くだらない中身もさることながら、なんと的確で面白い文章だろうか。
時間が有り余ってしょうがない,と言う人には、是非一度手にとってもらいたい。

話は戻るが、なぜこのような人物を主人公として立てて、読みやすい小説が成り立つのか、読みながら考えていた。
おそらく小川洋子さんという人は、そういった主人公のような人を、決して変わり者だと思っていないのだろう。
たとえば、叶わないとわかっていながら、なんども新田氏に「チェンバロを弾いてくれ」と懇願したり、やはりそれが叶わない事をしり、木の幹を拳で何度も打ち付けたり、どうしても北海道へ行くのなら、飼い犬を殺すのだと、おどしたり、そういう行為が決して狂人ばかりがするものではないと言う事を、知っているのだ。
どんなに慎ましやかな人間でも、狂気は持ち合わせているし、その内側にある狂気がどのように表にあらわれてくるのかは、人それぞれであろう。
その表し方が、少し人と違う人は、大抵の場合、人から異質なものと見なされがちである。
しかし、それは決して異質でもなんでもないんだよ。と、小川さんの小説を通して、慰められているような、頭を優しく撫でられているような、そんな気持ちがしてくる。
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by kutuganaru | 2006-04-06 17:10