第4話
2009年 02月 12日
千代がホットミルクにほっこりしつつ、ぼん吉はどうしてうちの居間に居座っているのかなあ、などと考えていると、玄関の戸がガラガラ音を立てた。
「なんで、店誰もいないの」
呆れ返った声をあげたのは、高校から帰宅した弟の咲ノ介だった。
「サクちゃん、おかえり」
「咲ノ介さん、おかえりなさい」
千代とぼん吉は声を揃えた。
咲ノ介は、何も答えずに階段をトントンと軽快に昇って自分の部屋へ行くと、高校の制服を脱ぎ、ブレザーとズボンをきちんとハンガーにかけてから、もう一週間も洗濯していない中学時代のジャージを着て、ブレザーの下に着ていたワイシャツを片手に降りてきた。
ワイシャツは、毎日洗濯するのだ。咲ノ介はアイロンも、自分でかけている。
「サクちゃんも、ホットミルク飲む?」
千代は、咲ノ介が怒っていると踏んで、甘ったるい声を出した。
子供が苦手な千代であるが、弟だけは違った。
自分のことですら苦手であった小学生の頃も、それよりもっと小さくて、腕を強く握っただけで折れてしまいそうなほどだった頃も、咲ノ介のことだけは、かわいかった。
なのに、咲ノ介は、つれない。
幼い頃から、咲ノ介はいつも、つれなかった。
他の家の子や、クラスの女子には、とても優しい子なのである。
気を引こうと女子にいじわるをするような、ありがちな小学生男子とは、一線を画していた。
乱暴な中学生男子とも、一線を画していた。
そして、自分と、恋愛と、バイクにしか興味を持たない高校生男子とも、あきらかに一線を画している。
しかしその、いつの時代も、千代にだけは、一様に“つれない”という姿勢を貫き通していた。
“冷たい”のでは、ない。
“嫌っている”わけでも、決してない。
千代は少し寂しい思いを、いつもしていた。
あまりにいつも、少しばかり寂しいので、もう慣れてしまったのだけれど。
「お姉ちゃん、店は」
千代の家は、一階の半分が、商店になっている。
たばこを売る小窓があり、その脇に引き戸の入り口があって、ハンドベルのラの音が取り付けてある。
パンや、洗剤や、カップヌードルや、菓子折りや、電池、ライター、などが、乱雑に置かれた、狭いけどなんでもそろう、店である。
「誰もこなかったよ」
千代は言いながら、自分が寝ていた時間のことが不安で、ぼん吉を振り返る。
「誰も、来ませんでした」
ぼん吉も、丁寧に答える。神妙な顔をすることも、忘れない。
「なら、いいけど」
咲ノ介は、ジャージ姿で、店へとするする入っていった。
「なんで、店誰もいないの」
呆れ返った声をあげたのは、高校から帰宅した弟の咲ノ介だった。
「サクちゃん、おかえり」
「咲ノ介さん、おかえりなさい」
千代とぼん吉は声を揃えた。
咲ノ介は、何も答えずに階段をトントンと軽快に昇って自分の部屋へ行くと、高校の制服を脱ぎ、ブレザーとズボンをきちんとハンガーにかけてから、もう一週間も洗濯していない中学時代のジャージを着て、ブレザーの下に着ていたワイシャツを片手に降りてきた。
ワイシャツは、毎日洗濯するのだ。咲ノ介はアイロンも、自分でかけている。
「サクちゃんも、ホットミルク飲む?」
千代は、咲ノ介が怒っていると踏んで、甘ったるい声を出した。
子供が苦手な千代であるが、弟だけは違った。
自分のことですら苦手であった小学生の頃も、それよりもっと小さくて、腕を強く握っただけで折れてしまいそうなほどだった頃も、咲ノ介のことだけは、かわいかった。
なのに、咲ノ介は、つれない。
幼い頃から、咲ノ介はいつも、つれなかった。
他の家の子や、クラスの女子には、とても優しい子なのである。
気を引こうと女子にいじわるをするような、ありがちな小学生男子とは、一線を画していた。
乱暴な中学生男子とも、一線を画していた。
そして、自分と、恋愛と、バイクにしか興味を持たない高校生男子とも、あきらかに一線を画している。
しかしその、いつの時代も、千代にだけは、一様に“つれない”という姿勢を貫き通していた。
“冷たい”のでは、ない。
“嫌っている”わけでも、決してない。
千代は少し寂しい思いを、いつもしていた。
あまりにいつも、少しばかり寂しいので、もう慣れてしまったのだけれど。
「お姉ちゃん、店は」
千代の家は、一階の半分が、商店になっている。
たばこを売る小窓があり、その脇に引き戸の入り口があって、ハンドベルのラの音が取り付けてある。
パンや、洗剤や、カップヌードルや、菓子折りや、電池、ライター、などが、乱雑に置かれた、狭いけどなんでもそろう、店である。
「誰もこなかったよ」
千代は言いながら、自分が寝ていた時間のことが不安で、ぼん吉を振り返る。
「誰も、来ませんでした」
ぼん吉も、丁寧に答える。神妙な顔をすることも、忘れない。
「なら、いいけど」
咲ノ介は、ジャージ姿で、店へとするする入っていった。
by kutuganaru
| 2009-02-12 23:55