キンモクセイの匂いが、とても強くて、ついうっかりしてしまった。
こういう日が、一年に、何度かくる。
鼻がかゆくなるくらい、頭が痛くなるくらい、強く強く香る夜には、あの子の事を思い出さない訳にはいかないのだ。
14歳になったばかりの11月。2週間だけ、私のクラスに転校して来た、風の又三郎。
一度も口をきかなかった。
目も、合わなかった。
すれ違う事も、ほぼ、なかった。
ついうっかり机の上の消しゴムを落としてしまい、「ごめんね」という事もなければ、帰り道、すれ違い際に「ばいばい」という事もなかった。
彼が引っ越して行く前の日の夜。
キンモクセイが強く香っていて、私は一人で、商店街を歩いていた。
又三郎(本当は違う名前だったけど)を見た。
彼は、店じまい直前で、店内に人影が、ほんの一瞬なくなった八百屋さんの、みかんを一つ、盗んだ。
「あ」
思わず小さく声をあげた私を、彼が振り返ったので、私たちは初めて目が合った。
最初で最後だった。
彼は何も言わずに、私のことなんて知らないかのように、前に向き直って、軽やかな足取りで去っていったので、結局言葉をかわす事は、一度もなかった。
又三郎は、たぶんありふれた顔をしていたので、もう顔を思い出せない。
言葉をかわしたこともないので、声も思い出せない(というか、知らない)。
背が高かったかも、太っていたかどうかも、わからない。
私が思い出せるのは、あの去り際の、軽やかな足取りと、右手でポンポンやられていた、まだ青みがかったみかんだけだ。
だから、一瞬しか思い出に浸る事もないんだけど、どうして気分が滅入るかと言えば、万引きを止めなかったから、というわけではなく、あのとき、せめて「あ」とでも言い返してくれれば、きっとその声を忘れなかっただろうなあ、と思うと、なんだか無性に、悔しくなるからなのだった。
今日は2本「神童」(松山ケンイチに大満足。ピアノの音でリラックス)
「歌謡曲だよ、人生は」(久しぶりにあんなつまんない映画みた・・・)
こういう日が、一年に、何度かくる。
鼻がかゆくなるくらい、頭が痛くなるくらい、強く強く香る夜には、あの子の事を思い出さない訳にはいかないのだ。
14歳になったばかりの11月。2週間だけ、私のクラスに転校して来た、風の又三郎。
一度も口をきかなかった。
目も、合わなかった。
すれ違う事も、ほぼ、なかった。
ついうっかり机の上の消しゴムを落としてしまい、「ごめんね」という事もなければ、帰り道、すれ違い際に「ばいばい」という事もなかった。
彼が引っ越して行く前の日の夜。
キンモクセイが強く香っていて、私は一人で、商店街を歩いていた。
又三郎(本当は違う名前だったけど)を見た。
彼は、店じまい直前で、店内に人影が、ほんの一瞬なくなった八百屋さんの、みかんを一つ、盗んだ。
「あ」
思わず小さく声をあげた私を、彼が振り返ったので、私たちは初めて目が合った。
最初で最後だった。
彼は何も言わずに、私のことなんて知らないかのように、前に向き直って、軽やかな足取りで去っていったので、結局言葉をかわす事は、一度もなかった。
又三郎は、たぶんありふれた顔をしていたので、もう顔を思い出せない。
言葉をかわしたこともないので、声も思い出せない(というか、知らない)。
背が高かったかも、太っていたかどうかも、わからない。
私が思い出せるのは、あの去り際の、軽やかな足取りと、右手でポンポンやられていた、まだ青みがかったみかんだけだ。
だから、一瞬しか思い出に浸る事もないんだけど、どうして気分が滅入るかと言えば、万引きを止めなかったから、というわけではなく、あのとき、せめて「あ」とでも言い返してくれれば、きっとその声を忘れなかっただろうなあ、と思うと、なんだか無性に、悔しくなるからなのだった。
今日は2本「神童」(松山ケンイチに大満足。ピアノの音でリラックス)
「歌謡曲だよ、人生は」(久しぶりにあんなつまんない映画みた・・・)
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by kutuganaru
| 2007-12-12 02:00